令和5年5月10日、奈良市議会の臨時会において、議案第60号と請願第3号が議題に上がった。議案は、住民訴訟によって認定された損害賠償請求事件に関連する和解案の可決を求めるもので、市議会は厳しい審議を行った。
まず、議案審査特別委員会を通じて、和解案の詳細が報告された。34番森田一成議員は、「奈良市新斎苑用地取得により、損害賠償請求事件に関する確定判決が重要であり、和解案を受け入れることで公共事業に悪影響を及ぼす」と強調した。彼は、最高裁判決が下されているにも関わらず、市民が今後の訴訟に不利な状況に置かれる懸念を示した。
続けて、井上昌弘議員は、この和解が住民訴訟の意味を無視するものであり、特に和解金が当初の請求額に比して大幅に減額される可能性がある点を批判した。「行政と市民の信頼関係が危うくなる」との具体的な観点から、損害賠償金の放棄につながると警告を発した。
また、賛成側からもかなりの意見が寄せられ、「合併特例債の利用が財政負担の軽減に寄与する」との主張があったものの、住民にとっての公正な取引が損なわれる恐れについて共通認識があった。議論の中で現金回収のリスクも指摘され、市民の利益を考慮する必要が強調された。
結局、議案第60号は可決されたものの、風向きは議会内で二分されていた。賛成者と反対者の双方の意見が衆知を集める中、請願第3号は少数派の賛成に終わり不採択と決定した。市長は、議論の複雑さを理解しつつも、会議の結果を受け入れた。市長仲川元庸氏は、「新斎苑事業の安定稼働に向け、市民と共に努力すること」を改めて強調した。