令和2年奈良市議会6月定例会では、観光業の回復に向けたユニバーサルツーリズムの重要性が議論された。
特に、無所属の林政行議員は新型コロナウイルス感染症の大打撃を受けている観光業の早急な回復策が必要であると訴えた。ユニバーサルツーリズムとは、年齢や障害にかかわらず、全ての人が楽しめる旅行を提供する概念であり、国内外に約9億8000万人のいわゆる旅行弱者が存在すると指摘した。これにより、奈良市が国際文化観光都市として成長するためには、この層への対応が不可欠であると強調した。
林議員は、観光経済部および福祉部が連携し、バリアフリー情報の整備と観光支援を進める必要性を訴えた。「現在、奈良市ではユニバーサルデザインの考え方を積極的に取り入れておりますが、ユニバーサルツーリズムに向けた具体的な取り組みが求められています」と林議員は述べ、観光経済部長と福祉部長の見解を求めた。
観光経済部長の梅森義弘氏は、「ユニバーサルツーリズムの推進に向けた奈良市ユニバーサルデザインマスタープランが策定されており、全ての市民と訪問者が安心して奈良を楽しめる環境を整えていく必要があります」と返答した。さらに、観光協会の取り組みを基に、他都市の成功事例を研究しつつ、地域の課題に取り組む姿勢を示した。
ただし、具体的な施策の進捗に関しては懸念も表明された。林議員は、これまでも取り上げてきた物理的バリアの解消が進んでいない点を指摘し、「具体的な成果が見えず、進捗が感じられない施策もある」と苦言を呈した。
また、教育に関する話題も取り上げられた。4番の山出哲史議員は、奈良市の新しい教育のビジョンについて質問を投げかけ、教育長の北谷雅人氏とのやり取りの中で、このビジョンがどう策定されたのか明確な経緯が示されていないことを問題視した。
さらに、教育長は「このビジョンは教育委員会が作成したもので、議決を必要としないものである」とし、計画策定の背景を説明。しかし、山出議員は議会との調整が不透明であることを危惧し、プロセスへの疑問を呈した。また、学生の雇用に関する新しい取り組みについても、市長が具体的な計画を示すことが求められた。
最終的に、会議全体では奈良市の観光レベルの向上や教育改革に向けた方向性が討議され、新しい視点での政策推進を促す意義が強調された。
議会の合意を得た後、議案第60号から第68号に関しては、補正予算等特別委員会に付託されることが決まった。今後の動向が注目される。